5つの原則


cannotuse多くの書籍を読み、パソコンスクールに通い、社内教育を受けたにもかかわらず、思うように実務で Excel を使いこなせない、という話を聞きます。マイクロソフト オフィス、それも Excel だけで数百の日本語による書籍が発刊され、さらに有志によるブログなどの情報発信が数多くされていても10数年前と比べて状況はあまり変わっていないのが現状です。

多くのユーザーは Excel という表計算ソフトウェアを業務の中で使い、期待する結果を作り出すのが目的です。Excel はその結果を作り出すための道具の1つにしか過ぎず、みなさんは「実務」の中で Excel と向いあっているはずです。

よく聞く話として「ピボットテーブルを使いこなしたいけど、習った通りに動かない、結果が出ない」ということがあります。ピボットテーブルの機能は十分に理解して、サンプルデータや、スクールの演習環境ではうまくできたのに、いざ現場でやると結果のデータが足りない、取りこぼしがある、などです。そして「ピボットテーブルは難しい」と思い込んでしまっているパターンです。

ピボットテーブルの基本機能については、たぶん理解しているはずです。みなさんの理解力不足ではないはずです。問題は元のデータです。書籍やオンライン、トレーニングで使われている元データはきちんと結果がでるように「きれいにした」データの集まりであることを誰も教えてはくれません。

この例は、Excel のピボットテーブルの知識がないのではなく、実務で使われる「データ」の問題なのです。

道具を知り、使えるようになることは重要です。しかし、みなさんの実務環境はトレーニングやデモンストレーション等で用意されたようなきれいな環境であることは珍しく、むしろ、思ったようにならない例外が発生することのほうが多いわけです。

そのようなことが発生するものだ、という認識をもって上級者は Excel を使用しています。

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多くのユーザーに実務で Excel を活用してほしい、その願いから、実践ワークシート協会では実務における Excel 上達のための「5つの原則」をまとめました。

第1の原則 Excel を知る

道具である Excel を知ることは基本中の基本です。むしろ、これまではこの「Excel を知る」だけに注力していた面もあります。Excel を理解するためのステップとして実践ワークシート協会では「機能」、「関数」、「VBA」という要素に分けた上で、業務に必要な部分を抜き出し、バランス良く学習、習得することを勧めています。

機能・関数・VBA については こちらのページ も参照ください。

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第2の原則 ワークシートを知る

Excel は表計算ソフトウェアです。ワークシート(スプレッドシート)という仕組みを使い、セルの中に入力された数値もしくは文字のデータを操作して結果を出すものです。しかし、明確に「ワークシートはこう作るべき」という指針はあまり広く知られていません。これにより「エクセル方眼紙」と呼ばれる、電子化する前の入力用紙や紙のテンプレートをそっくりそのままワークシートにしてしまう悪行が横行しています。エクセル方眼紙を全否定しませんが、もし、業務としてそれらのデータを「再利用」するのであれば、エクセル方眼紙にすることで Excel が本来業務向けに持っているポテンシャルの半分以上を殺し、その状態で無理やり業務利用しようとすることで無駄な開発、無理な実装が発生していることが多々あります。

ワークシート設計の基本は「入力シート」、「計算シート」、「出力シート」の3つに役割をわけることです。

その上で、入力シートと計算シートを1つにする、入力シートと出力シートを1つにする、などでより使いやすいワークシートに修正していくことで、Excel のポテンシャルを引き出しながら、実務で最大限の利用が可能になります。

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第3の原則 データを知る

多くのユーザーは Excel の機能を学ぶ過程で Excel が扱うデータを意識し始めると思います。ただし、それは Excel がエンドユーザー向けのアプリケーションゆえに極めてあいまいに教わっている / 伝えているケースが多いです。

プログラマーではなく、エンドユーザーであったとしても、データを扱うには「データの種類」を意識するほうが実務で Excel を使う上でトラブルを回避することができます。こと Excel に関していえば、それほど難しい話ではありません。Excel がセルで扱うデータの種類は以下の 6 つしかありません。

  1. 数値
  2. 文字
  3. シリアル値(日付・時間を扱うために使われる数値)
  4. 配列
  5. エラー値(数式が結果として出すエラーの値)
  6. ブール値(数式が評価の結果として出す状態。TRUE/FALSE)

ただし、人間である我々が目でみて理解しているものと、Excel が理解し保持しているものは全く同じではありません。ですが、Excel は人間が理解しやすいように見せる機能を持っています。これが「表示形式」です。この Excel におけるデータの扱い方を知らないために残念な結果になっている Excel ブックが非常に多いのです。

データを理解することで、表示機能に代表される機能や扱うべきワークシート関数の理解がさらに深まります。

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第4の原則 業務を知る

この第4原則は、第3原則の「データを知る」と密接に絡み合います。
業務上 Excel で扱うデータについて、どう扱えばいいのか、どこに「マスター」と呼ばれるデータがあるのか、どのデータが正しいのか、ということを意識し、なるべく業務上の観点から正確・適切なデータを入手、処理することが肝心です。

Excel での処理では「手入力」によるデータ入力をお願いすることが多々あります。この時、機能である入力規則などを使って誤入力を回避することも可能ですが、業務上で使われるデータに「ゆらぎ」があるとその後の集計や分析処理ができないことが多々あります。これが現場でピボットテーブルがうまく機能しない1つの原因です。

例としてはお客様の会社名が「株式会社」なのか「(株)」なのか「㈱」なのかなどの違いや、半角・全角カタカナ、半角・全角スペースなどの扱いがあります。これらにゆらぎがあると Excel に限らずコンピューターでの処理は不確実なものになりがちです。

実務で使うデータには「規則(ルール)」があります。そのルールを知らずして、データの集計・分析は例外が発生したとき対応が困難であることは容易に想像できます。

実務で基本となるそれぞれのデータ(マスターデータ)を何等かの形で Excel に取り込み、処理するデータを「きれい」にできれば、Excel でのデータ処理・分析がスムーズにできます。Excel は 2007 以降のバージョンでマスターデータを保持する基幹データベースとの連携機能を強化しています。情報システム部門や、台帳を管理する部門と必要な情報を共有をすることで、エンドユーザー部門での Excel 活用が促進されます。

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第5の原則 開発を知る

Excel は「奇跡のソフトウェア」であり、機能・関数・VBA を習得していくと何でもできる気がしてきます。しかし、Excel はあくまで業務を補完するツールであり、規模の大小もありますが、基幹と呼ばれる仕組みにまで組み込むことはお勧めしません。VBA を使い、それが Excel だとわからないほどの開発をするケースがありますが、あくまで表計算ソフトウェアであり、機能・関数・VBA をバランスよく利用するエンドユーザー側の道具(ツール)という立ち位置を崩すべきではありません。これを越えての利用は Excel だけではなく、Windows のような OS の影響を受けやすくなり、バージョンアップやサービスパック、セキュリティアップデートで動かなくなる、というパターンに陥ることがあります。

逆に第4原則での「業務を知る」ことと、Excel が持っている最新の機能を合わせることで、これまで別途開発・保守していたものが標準の機能で代替できることもあります。これまで予算の都合で実現できなかったことが、最小限の追加コストもしくは作業により実現できれば、業務での Excel 活用で最大の効果を生み出す可能性があります。

Excel 開発手法という観点から、現在の Excel は 100万行のデータを扱うことが可能ですが、これらのデータ操作を VBA だけで行う時代ではなくなってきています。Excel を知らない開発者からは「そのデータ量は Excel では無理です。時間がかかります。」と言われがちだと思いますが、Excel は VBA だけではありません。VBA と Excel の機能を組み合わせることで想像できないほど高速にデータを処理する可能性を本来 Excel は持っているのです。Excel の機能の「オートフィルター」を VBA から利用することで数万件、数十万件のデータから一瞬で該当するデータの絞り込みが可能になります。

目的とすることが、やれるか、やれないかの切り分けは難しいですが、本質的に「Excel でできるか、できないか」、ではなく、「Excel でやるべきか、やらないべきか」を考えて、業務での利用を判断できるようになれば、時間、コストを最小限に抑えながら、実務で最大の効果が期待できるようになります。

 

実践ワークシート協会では、単に Excel の Tips やテクニックを広めるのではなく、実務での Excel の最大活用し、目的の達成の支援をどのように行うかに着目し、そのためのツールや情報を公開、セミナーを実施していきます。